(過去記事) 世界ハーフマラソン選手権2016:レジェンドは進化中 – スタート後の転倒から再生したジョフリー・カムウォロルがモー・ファラーを破る圧勝劇

A Legend in the Making: Geoffrey Kamworor Dethrones Mo Farah Despite Falling and Getting Trampled at World Half Marathon Championships

2016年3月26日

 

ジョフリー・カムウォロルの華々しい勝利はまだまだこれからたくさんあるだろうが、現在23歳 (当時)の彼のキャリアが終わり、彼が競技生活を振り返る時が来たら、彼はこの2016年3月26日のレースを一番鮮明に思い出すだろう。

世界クロスカントリー優勝、北京世界選手権10000m銀メダリスト、その栄光にまた一つ素晴らしい成績を付け加えた。カーディフで行われた世界ハーフマラソン選手権を59:10という素晴らしいタイムで優勝した。雨風が強い最悪のコンディションで、彼はスタート直後に転倒したのにも関わらずの結果である。吹雪が起きても、地震が道路を二つに分断したとしても、カムウォロルはこのレースに勝っていただろう。それだけ、彼は強かった。

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スタート直後に、カムウォロルは滑って転倒してしまい、そのまま7秒もの間、後ろから次々と走ってくる大勢の選手たちに踏まれてしまい、起き上がることができなかった。彼はスタートから1分20秒後には集団の後ろまで追いつくことができ、その10秒後には先頭集団に取り付いていた。初めの数マイルで、高速レースになることは予想できた。2マイル通過タイムが9:06、5kmが14:10であったが、カムウォロルと同じくケニアのビダン・カロキにとって、レースは始まったばかりだった。

カロキはレース序盤のペース作りの役割を果たしており、モー・ファラーはこの地点で先頭集団からは少し遅れ始めていた。しかし、必ずしもこれはファラーが疲労しているというサインではない。昨年のリスボン・ハーフマラソンでファラーがヨーロッパ記録の59:32で優勝したときも、ペースが速すぎると感じたら少し後ろに下がるという、同じような作戦をとっていた。

カムウォロルは5マイルを過ぎたあたりから前に出てペースを上げたが、6マイル地点(4マイル地点から6マイル地点までの2マイルのタイムは8分47秒)まででファラーとカムウォロル、カロキの差はまだ、たった5秒差だった。

このレースのターニングポイントは、6マイル過ぎあたりにやってきた。コースがカーディフ湾に入っていくあたり、カムウォロルとカロキは追い風を利用して後方を突き放しにかかったのだ。8マイルまでで(この地点で35:55)カムウォロルとカロキについてきたのはエチオピアのタミラト・トラであった(昨年の世界クロカン6位)が、彼も次第にペースについていけなくなる。

カムウォロルとカロキはトラと並走しながら、二手に分かれたりして、トラをどちらのペースについていくべきか惑わしているように見えた。トラが後ろに下がってしまっても、彼は自己記録ペースで走っていた(彼の自己記録は59:22だが、彼は59:08ペースで走っていた)。

ファラーも残された道は、2人のケニア人選手に追いつくために持ち前の猛烈なスピードを発揮すること、そしてレース終盤になって更に強くなる雨風によって2人のスピードが遅くなることを待つ、それだけだった。しかし、ファラーとケニア人選手との差が、あまりにも開きすぎていた。12マイルまでで、カムウォロルかカロキ、この2人のどちらかが優勝することが、ほぼ決定的になっていた。

カムウォロルとカロキは、北京世界選手権10000mではチームメイトとしてファラー崩しを試みたが、成功しなかった。しかし、今日のレースではファラーを王者の座から降ろすことに成功していた。そして、チームメイトだった2人は今や優勝を狙うライバルになっていた。

20km手前あたりで、雨雲が南ウェールズに流れ始めると雨が強く降り出した。テレビ中継が一時止まってしまい、放送が再開されると、雨は更に強くなっておりカムウォロルとカロキはびしょ濡れだった。そして、カムウォロルとカロキの間には20km地点で8約秒の差が開いていた。

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その差は開き、カムウォロルはカロキに26秒差をつけてゴール。優勝タイムは59:10、スタート直後に転倒したことと、悪天候を考慮すれば、彼のタイムは58:54以下の価値があるだろう。カロキも銀メダルの素晴らしい走りで、ファラーは60:00をかろうじて切ることができた。ファラーは1993年以来の世界ハーフマラソン選手権でのメダルをイギリスにもたらし、エチオピアのアベイナ・アイルとのラスト勝負を制した。

ジョフリー・カムウォロルの歴史的勝利

カムウォロルのレースは本当に素晴らしかった。彼はカロキというハーフマラソンでは怪物クラスの選手を26秒差で破った。カロキの調子もよく、これまでのレースではカムウォロルには負け無しであった。そして、トラック長距離界のスター、ファラーも49秒差で破った。しかし、そのタイムや結果だけを見ても、このカムウォロルのレースがいかに素晴らしいものであったかは、わからないであろう。

カロキと26秒差をつけたのは、最後の1マイルぐらいだった。カロキのような選手を負かすのはそう簡単なことではない。レース終盤、風は強く吹き、雨は選手の顔に強くあたる天気で、カムウォロルはリードを広げ、最後に強さを見せつけた。驚くべきことは、スタート直後に転倒してもすぐに立ち上がり走り出す、カムウォロルの力である。スタートの合図がなると、カムウォロルは滑り転倒、エチオピアの選手も彼に覆い被さるかたちで転んでしまう。

カムウォロルは約7秒もの間地面から立ち上がれず、その間100人のエリートランナーと、何千もの一般ランナーがカムウォロルを踏みつけて通り過ぎていく。彼のレースはここで終わってしまったか?皆がそう思っただろう。しかし、そうでなかった。エチオピアの選手がカムウォロルを助けてくれて、 観客が何が起こったか理解する前に、カムウォロルはレースに戻ることができたのである。

イギリスのBBCの中継では、スタートとスタート直後の数秒を映した後に、カムウォロルの転倒場面を放映し、それが彼のレースにどのように影響するかを分析し始めた。スティーヴ・キャムはカムウォロルの転倒を嘆き、今日のレースではカムウォロルは優勝争いに入れないという見解を述べた。

「レースとして(楽しみを1つ失ってしまって)残念だ。みんながカムウォロルとチームメイトのカロキ、そしてファラーとの戦いを楽しみにしていたのに。スローペースの展開になることだけが、カムウォルの唯一の望みだ」

と述べていた。しかし、このようにキャムが述べている間にカムウォロルはすでに集団に追いついていた。カムウォロルは転倒し、膝からは出血をしていた。大量のランナーに踏みつけられ7秒間地面から立ち上がれなかったが、彼は立ち上がり先頭集団に追いつくために猛スピードで走り出す。先頭集団は400mトラックだと68秒ペースで走っていたが、カムウォロルはその速さに追いついたのだ。そして、彼は前に出てモー・ファラーをもとらえた。

カムウォロルはこのレースでの勝利に満足していた。

「勝てて良かったよ。このレースは自分にとって大切なレースだった。スタートで転んでしまったけど、優勝できて本当に嬉しいよ」

レース後のBBCのインタビューにカムウォロルはそう答えた。

「転んでしまった後、絶対に諦めないと自分に言い聞かせたよ。だから勝ててとても嬉しいし、逆境にも関わらず勝てたことで自信がついた」

カムウォロルはこのハーフマラソンで世界記録を狙っていたことを明かしたが、この雨風の強いタフなコンディションではそれは不可能だった。

「世界記録を狙って走っていたけど、雨が強すぎた」

彼は、トラックファンなら誰もが喜ぶであろう言葉を付け加えた。

「リオオリンピックの10000mを楽しみにしてるよ」

58:23というハーフマラソンの世界記録について言うと、この後ケニアに半年間滞在するアンディ・アーノルドがレナト・カノーバの隣で、今回の世界ハーフを観戦していたのだが、彼によるとカノーバは、

「カムウォロルがハーフマラソンの世界記録を破るだろう」

と話していたという。

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カムウォロルとカロキの二人の勝負になったとき、カノーバは

「カムウォロルが勝つだろう」

と言っていたという。カノーバは、

「このコンディションの中ではカムウォロルが一番強い。どの選手も苦しんでいるが、カムウォロルは一番余裕があるように見えた」

と言っていた、とアンディは報告してくれた。

モー・ファラーも人間だった。しかし、彼の目標はさらに高く

ファラーは3位に入り、いいレースをしたが、彼自身にとっては結果は満足できるものではなかった。レース後のBBCのインタビューでそう語った。ファラーはいつも優勝を狙っているからだ。しかし、ファラーが今日の結果を恥じることなんて何もない。カムウォロルの今日の走りは、歴史的に見ても素晴らしい結果であったし、カムウォロルに勝つには相当の努力が必要とされるはずだ。ファラーは強い選手だが、彼の強さはトラックでより発揮されるものだし、1500m3:28のスピードもその舞台でこそ活かされるであろう。

ファラーは今日のコンディションでは59:00以内では走れないとわかっていたので、戦略的にレースを進めていた。カムウォロルとカロキが序盤にペースをかなり上げたため、この2人のペースが落ちることをファラーは待っていた。ファラーはトラと、ケニアのサイモン・チェプロットも振り切り、アベイナ・アイルとの最後の勝負にも勝った。しかし、カムウォロルとカロキの方が、(ハーフにおいて) 現状ではファラーより強い、それが事実だ。

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ファラーが銅メダルという結果に満足しているだろうと思っていたが、そうではなかった。

「今日の結果は残念だ。地元のレースで観客たちの声援もあり、やはり地元で優勝したかったが、自分より強い選手が勝った。2人ともすごく強いし、彼らは勝利に向かって突っ走ったが、自分はそれについていけなかった。信じられないぐらいのスピードだった。10km地点でペースを確かめたが、彼らはそのまま行ってしまった。この最悪なコンディションではすごく速いタイムだった。でもそれが“勝ちにいくアスリートの姿”だ」

レース後のBBCのインタビューに、ファラーはそう答えている。

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今日の結果はファラーにとっては満足できるものではなかったが、陸上競技にとってはいい兆しが見えたと言ってもいいだろう。カムウォロルの歴史的勝利を目撃できただけではなく、オリンピック以外でスター選手たちの名勝負が見られた素晴らしい機会だった。また、今年夏のリオオリンピックで、ファラーが破られる可能性、少なくとも打倒ファラーに挑戦できる可能性があるということが分かった。

ファラーは5000mと10000mにおいて未だに最有力の優勝候補であるが、ファラーが過去5年間に渡りその種目を支配してきたことを考えると、彼がメジャーなレースで破られるのも、競技全体の未来を考えると楽しみが増えることになるだろう。

コンディションと距離もリオオリンピックでは違うので、今日の結果だけではオリンピックの予想はできないが、もしカムウォロルの調子が2015年よりも良いのであれば、10000mでファラーを破る可能性もある。もしそうなれば、2011年以来の勝利となる。しかし、今日の結果はファラーにとって全てが悪いことではないはずだ。ファラーは今次の目標に向けて燃えている。

「リオが目標だ。リオではみんな更に強くなってくるだろう。だからもっとトレーニングをする。トレーニングをすれば、自分のモチベーションも上がるんだ」

ファラーはこう述べた。

もう1人の隠れざる勝者、エチオピアのグエ・アドラ

カムウォロルがスタート直後に転倒した時、大勢のランナーたちがカムウォロルを踏みつけていった。2014年のコペンハーゲンでの世界ハーフマラソン選手権銅メダリストのエチオピア人グエ・アドラはカムウォロルの隣に立っており、転倒したカムウォルの上に覆い被さるかたちで彼も転倒してしまった。

素晴らしいスポーツマンシップ精神だ。アドラは踏みつけられるカムウォロルを保護しながら助け、彼自身が起き上がった後、カムウォロルを地面から引き上げたのだ。アドラの支えがあってカムウォロルは立ち上がることができたのだ。アドラはその後、レースにいい状態で戻ることができなかった。

この事からも、カムウォロルがいかに凄いかがわかるだろう。他のエチオピア人選手たちは先頭集団についていたが、アドラは5km地点でもその集団にはいなかった。先頭集団は最初の5kmを14:10〜12で通過しているが、アドラは14:25かかっていた。アドラは転倒後に先頭集団に合流できなかったのにも関わらず、カムウォロルはわずか1分20秒後に追いついたことを考えると、いかにカムウォロルの回復力がすごいかがわかるだろう。

17分30秒〜:男子レースのスタートでカムウォロルが転倒する

20分20秒〜:転倒したカムウォロルが先頭集団に追いつく

33分50秒〜:5kmを14分10秒で通過した後、カロキがペースを上げる

1時間13分26秒〜:カムウォロルが豪雨のコンディションのなか独走して優勝

POS BIB ATHLETE COUNTRY MARK
1 559 Geoffrey Kipsang KAMWOROR KENKEN 59:10 SB
2 562 Bedan Karoki MUCHIRI KENKEN 59:36 SB
3 538 Mohamed FARAH GBRGBR 59:59 SB
4 528 Abayneh AYELE ETHETH 59:59 PB
5 531 Tamirat TOLA ETHETH 1:00:06 PB
6 558 Simon CHEPROT KENKEN 1:00:12 SB
7 523 Abrar OSMAN ERIERI 1:00:58 SB
8 532 Mule WASIHUN ETHETH 1:01:11 SB
9 560 Edwin Kiprop KIPTOO KENKEN 1:01:21
10 579 Stephen MOKOKA RSARSA 1:01:27 SB
11 529 Teshome MEKONEN ETHETH 1:01:39 SB
12 561 Edwin KIPYEGO KENKEN 1:01:52
13 521 Nguse AMLOSOM ERIERI 1:01:54
14 546 Paul POLLOCK IRLIRL 1:02:46 SB
15 540 Callum HAWKINS GBRGBR 1:02:51
16 527 Guye ADOLA ETHETH 1:03:26
17 524 Hiskel TEWELDE ERIERI 1:03:26 SB
18 526 Ayad LAMDASSEM ESPESP 1:03:29 SB
19 534 Sidi-Hassan CHAHDI FRAFRA 1:03:30 SB
20 501 Michael SHELLEY AUSAUS 1:03:33 SB
21 590 Robert CHEMONGES UGAUGA 1:03:39 PB
22 553 Naoki KUDO JPNJPN 1:03:41
23 596 Timothy RITCHIE USAUSA 1:03:49 SB
24 522 Samsom GEBREYOHANNES ERIERI 1:04:03
25 552 Stefano LA ROSA ITAITA 1:04:05 SB

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2016/03/legend-making-geoffrey-kamworor-dethrones-mo-farah-despite-falling-getting-trampled-world-half-marathon-championships/

 

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