ロンドン世界選手権:男子10000m展望 – ジョフリー・カムウォロルとモー・ファラーの最後の戦い

2017 Worlds Men’s 10,000 Preview: Geoffrey Kamworor Gets One Final Crack at Mo Farah on the Track

2017年7月30日

 

2012年8月4日のロンドンスタジアム、モー・ファラーは男子10000mで金メダルを獲得した。その日は、イギリスにとっては金メダルラッシュで、ファラーの他に、走り幅跳びのグレッグ・ルサーフォード、七種競技のジェシカ・エニスが、たった数時間の間に地元イギリスに金メダルをもたらしていた。

5年後の同じ日となる今週金曜日、ファラーは最後の国際大会での10000mの優勝を狙いに、同じトラックに – 2017年の世界選手権の初日に、彼は戻ってくる。

34歳となるファラーのライバルは、ケニア勢だ。2年前の北京世界選手権でジョフリー・カムウォロルはファラーに続き2位に入り、ポール・タヌイはリオオリンピックで2位に入った。カムウォロルとタヌイの2人は、ひとつ上の表彰台を虎視眈々と狙いにくるだろう。ファラーが今年をもってトラックから退くという言葉が本当ならば、この2人のケニア人にとってファラーを倒せる最後のチャンスとなるのだから。

2016年リオオリンピック結果 (横線は今回出場しない選手)
1. モー・ファラー, イギリス 27:05.17
2. ポール・タヌイ, ケニア 27:05.64
3. タミラト・トラ, エチオピア 27:06.26
4. イェグリム・デメラッシュ, エチオピア 27:06.27
5. ゲーレン・ラップ, アメリカ 27:08.92

2017年シーズンTOP5 (ロンドン世界選手権に出場する選手のなかで)
1. アバディ・ハディス, エチオピア 27:08.26
2. ジェマル・イエメル・メコネン, エチオピア 27:09.08
3. モー・ファラー, イギリス 27:12.09
4. アンダマラク・ベリフ, エチオピア 27:20.57
5. モーゼス・マーティン・クロン, ウガンダ 27:22.33

ファラーに更なる金メダルを?

ここ5年間、1つの疑問が常にあった。

「誰がファラーを破れるか?」

そして、毎年彼は同じ答えを出した。

「誰も破れない」

ここ5年の世界選手権で彼は、長距離界の歴史に残る素晴らしい成績を残してきた。4大会連続 (ロンドン、モスクワ、北京、リオ)の5000mと10000mで2冠。

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そして、最後のトラックでの10000mの戦いに望むファラーは、また金メダルを取りにくるのだ。彼はもちろん優勝候補の1人だ。彼はプレフォンティンクラシックで5000mのシーズンベストを出している。ここ4年でトラックで負けているのは1500mだけである。しかし、今回はファラーには不安要素がある。

ファラーは6月28日のオストラヴァでの10000mで勝っているが、最初の5000mは13:25、残り5000mが13:47、彼の自己ベストの26:46からはほど遠い27:12という優勝タイムであった。気温が26.6℃以上と高く、後半はほとんど彼が引っ張るかたちとなってしまったが、それでもこの結果はファラー自身が望んでいたものではなかった。しかし、この結果だけを見ないで欲しい、ファラーは世界陸上1週間前のインタビューで次のように語っている。

「まだ本番でのベストな状態ではないが、当日までには必ず合わせにいくよ」

知っておかなければならないのは、ファラーは世界レベルの10000mの選手の中でもかなり年長の選手であるということだ。2012年のロンドンオリンピックで金メダルを獲得した時も、過去32年のうちの10000mで金メダルを獲得した一番年長の選手だった。それが彼が29歳の時だ。彼の長いキャリアは本当に素晴らしいが、それでも少し陰りが見えてきている。年々のタイムを比較するだけでは完璧ではないが、彼が1500mを3:30より速く走れる日々はもうないだろう。

もし、ファラーの過去2回の10000mでの優勝と比較するならば、2016年よりも2015年の方が明らかに調子が良かった。2015年は27:01で走り、最後の400mは54.2。2016年は、27:05でフィニッシュし、最後の400mは55.37だった。しかし、それでもなお、今シーズンの3:34、13:00、27:12(オストラヴァでのタイム)は、多くの選手にとっては決して簡単に出せるタイムではない。

“故郷イギリスで、2012年以降トラックで負け無しのファラーを破ることは、そう簡単なことではない”

挑戦者たち

2011年にファラーが世界大会で勝つようになってから、どうしたらモー・ファラーを敗れるかということがよく話されるようになった。いくつかの方法が言われてきたが、“チーム戦略で勝つ”というのが大方の見方だった。この考えにはもちろんメリットもあるが、下記の状況においてのみ、チーム戦略というのは機能する。

①全ての選手がチームのために自らを犠牲にする意志がある場合
②実際にファラーに挑めるだけの力のある選手がいる場合

しかし、世界大会ではまだその状況が揃ったためしはない。しかし、ファラーにも過去には負けた経験がある。事実、28歳で鮮烈な進化を遂げる前は、彼は頻繁に負けていた。しかし、ファラーには2つの違ったキャリア(2011年、アルベルト・サラザールの元でトレーニングを開始する前と後)があることを考慮すると、昔の負けというものはそんなに気にしなくていいだろう。代わりに、サラザールの門下にあった2011年大邱世界選手権の10000mで負けた時のことを見てみよう。

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このレースでは、ファラーは早くに仕掛け過ぎたと思う方もいるだろう。イブラヒム・ジェイランがホームストレッチでファラーをくだしたのだ。しかし、ファラーのこの時のタイムは27:14で、最後の400mは53.3で走っている。通常ならば金メダルを獲ってもおかしくないタイムだ。実際に、ファラーがこれまで勝ってきた10000mのレースの中でも一番速い最終ラップのタイムなのだ。ファラーは戦略ミスで負けたのではない。ジェイランが最後の400mを52.8で走ったから、ファラーは負けたのだ。ファラーが負けた理由、それはジェイランがファラーを上回っていたからだ。

10000mにおいて戦略が通用しないという訳ではないが、25周のレースの中において、戦略はシンプルである。速い選手が勝つ。2017年、それはファラーじゃないかもしれない。

2年前のように、ジョフリー・カムウォロルはファラーを倒せる可能性が一番ある男だ。カムウォロルは2014年の世界ハーフマラソンと2015年世界クロカンで優勝している。それぞれ2年後の同じ大会で2連覇 (カーディフ&カンパラ)を達成し、彼はファラーを倒せる一番近い位置にいる (去年のオリンピックでは11位に終わっているが、その時、実はカムウォロルは肺の感染症に苦しんでおり、秋になるまで正式に診断されなかったという)。

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2017年のケニア選手権の10000mは、2015年のケニア選手権10000mと奇妙なぐらい似ていた。タイムは遅くなったものの、順位とタイム差はほぼ一緒だった (ナイロビの標高は約1760m)。

2015
1. ジョフリー・カムウォロル 27:11.89

2. ビダン・カロキ 27:15.33
3. ポール・タヌイ 27:18.45

2017
1. ジョフリー・カムウォロル 27:35.9
2. ビダン・カロキ 27:40.3
3. ポール・タヌイ 27:42.6

カムウォロルはすでに今年ファラーと対戦している。プレフォンティンクラシックでファラーは13:00.70、カムウォロルはは13:01.35で、ファラーに負けている。しかし、カムウォロルは5000mよりも10000mの方が得意である。もし、ファラーが去年から状態を下げているのなら、カムウォロルにはファラーに打ち勝つ可能性がある。

ポール・タヌイもこのレースで勝てる可能性のあるケニア人選手だ。この小柄な選手は、過去3度世界大会でメダルを獲得しており、去年のリオオリンピックでは銀メダルを獲っている。ファラーとカムウォロルにプレフォンティンクラシックでは大敗したが (タヌイは13:14.09の11位だった)、彼もカムウォロルと同様に10000mの方が得意である。

カロキもまたメダル候補である。彼はRAKハーフマラソンを59:10で優勝しているが、この3人のケニア勢がベストな状態であれば、カロキは3番手になる。カロキは世界大会の10000mではメダルをまだ獲っていない (タヌイはその中でカロキに3勝している)。2015年の世界クロカンと2016年世界ハーフマラソンではカムウォロルに負けている。表彰台に上がるだけでも、カロキにとっては偉業となる。

去年のリオオリンピックでエチオピア勢は3位と4位に入っているが、2017年のエチオピアは去年ほど強くない。タミラト・トラもイェグリム・デメラッシュも世界選手権の10000mは出場しない。トラの3回目のマラソン挑戦は、ドバイマラソンで2:04:11という素晴らしい結果だった。それ以降、トラはトラックレースを走っていない。デメラッシュは2月のRAKハーフマラソンを59:19という記録で走ったが、ヘンゲロでのエチオピア選手権は途中棄権で、今回エチオピア代表には選ばれていない。

もう1人のオリンピック選手であるアバディ・ハディスは、3月の世界クロカンで3位という成績を残しているが、リオでは15位に終わっている。ジェマル・イエメル・メコネンは世界クロカンで4位だったが、トラックでは世界大会に出場経験がない。エチオピア勢の最後の選手に関しては、ほとんど何も知られていない、19歳のアンダマラク・ベリフだ。どのデータベースでも彼の戦歴は、2017年のエチオピア選手権 (ヘンゲロでの10000m)しか載っていない。

ファラーとケニア勢以外に優勝の可能性があるのは、ウガンダのジョシュア・チェプテゲイだ。チェプテゲイはリオオリンピックでは6位、世界クロカンではレース終盤にフラフラになってしまう前まではカムウォロルの前を独走していた。彼の今年の成績は良く、3000mでは7:34、5000mで12:59という自己記録を出している。プレフォンティンクラシックでは、カムウォロルのすぐ後ろでゴールしている。

ケニア勢にとって、もっと重要なことは、世界選手権という大舞台でファラーを倒すというガッツがチェプテゲイにはある、ということだろう。勝てなかったとしても、カムウォロルとタヌイにとってはペースを上げてくれるいい存在になるだろう。打倒ファラーには必要な存在だ。彼のスピードが落ちたとしても、ファラーにはラストスパートがある。ロンドン世界選手権ではペースが遅くなるほど、彼が勝つ可能性は高くなる。ファラーに勝つためには、27:30より速いペース (キロ2:45=1周66秒よりも速く)でレースを進める必要があるだろう。

アメリカ勢について

世界選手権のこの種目において、アメリカ人がメダルを獲得したことはまだない。ゲーレン・ラップを除いては、表彰台から14秒以内にゴールした選手がいない。ハッサン・ミード、シャドラック・キプチルチル、レオナルド・コリルは優秀な選手たちだが、世界レベルの大会では惨敗してきた。彼らの結果を見てみよう。

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ハッサン・ミード
2015年 北京世界選手権10000m: 15位
2016年 リオオリンピック5000m:11位

シャドラック・キプチルチル
2015年北京世界選手権10000m:16位
2016年リオオリンピック10000m: 19位
2017年 世界クロスカントリー:21位

レオナルド・コリル
2016年リオオリンピック10000m:14位
2017年世界クロスカントリー:20位

コリルは2016年に比べると今年は良く走れているので、基本的なトレーニングを今はする必要がない。しかし、それでもロンドンで戦えるところまでレベルアップはしていないように思える。ミードとコリルは2人ともプレフォンティンクラシックの5000mに出場しているが、16位と19位という結果に終わっている。世界選手権の10000mでメダルを狙うには、27:00を切らなければならない。今シーズン、アメリカ人で27:30を切った選手は未だいない。10位以内に入れば、いいほうだろう。

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モー・アーメド (カナダ)

モー・アーメドとパトリック・ティアナンにも頑張ってほしい。彼らはアメリカ人ではないが、ふたりともNCAA (全米大学体育協会)のスター選手だった。アーメドはリオオリンピックの10000mで最下位だったが、5000mでは世界レベルの選手だ (リオオリンピックでは4位)。2013年のモスクワ世界選手権の10000mでは9位だった。彼は4年前よりレベルを上げてきている。だから、レースがスローペースで進むと、彼にもメダルの可能性が出てくる。

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パトリック・ティアナン (オーストラリア)

ティアナンは、去年の全米大学クロスカントリー選手権でエドワード・チェセレクに勝ってからというもの、メキメキと強くなってきている。今年のペイトン・ジョーダン招待の10000mでもアーメドを破っている。トップのアフリカ勢についていくことは簡単ではないが、ティアナンはペイトン・ジョーダンの10000mでアーメドを破り、世界クロカンでは13位でアフリカ生まれ以外の選手ではトップだった。もちろん、アフリカ生まれ以外の選手でトップであってもメダルはもらえないが、もし可能だったら、彼にメダルをあげたい。

レッツ・ランの予想
1位:ファラー
2位:カムウォロル
3位:タヌイ

2011年以降、ファラーの金メダルは一番危うい。しかし、それでも彼がこれまで多くの舞台で勝ってきたのを知っている。とは言っても、優勝候補であるファラーが本番の2週間前にもっと調子が良かったら…と言っているのは、いい予兆でないかもしれない。この記事を書いているとき、パディ・パワー(英国老舗のブックメーカー)でのオッズは、カムウォロルが7倍、タヌイが33倍であった。もしイギリスに住んでいれば、賭ける価値があるだろう。

 

レッツラン記事

http://www.letsrun.com/news/2017/07/2017-worlds-mens-10000-preview-geoffrey-kamworor-gets-one-final-crack-mo-farah-track/

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